zine, zine, zine
zineとは
冒頭の画像に写っているのは、いわゆる「zine」と呼ばれるものです。「zine」は”ジン”とか”ジーン”と発音し、その由来は、「magazine(雑誌)」の”zine”から来ています。
その「zine」とは、主に個人や小規模なグループによって制作される、自己出版された小冊子のことを指します。「リトルプレス」とはほぼ同義で、「同人誌」などにも近いです。ストレートに言えば、「作り手のピュアな思想や想い、オススメが詰まった紙媒体」といったところでしょうか。
「zine」はその名からもわかるように、元々は欧米の音楽カルチャーの発信から始まったものであるのに対し、「同人誌」は日本のマンガなどから始まったもので出自が違うので呼び方も違うといったところでしょうか。いずれにしても、サブカル的なものを体現するメディアであるのは間違いないところです。
以下が「zine」の主な特徴です。
- 自主制作:商業出版物とは異なり、zineは個人または小規模なグループによって作成され、出版社を通さずに自主的に発行されます。
- 小規模な発行部数:zineは通常、少量しか印刷されず(orできず)、
- 多様なテーマ:テーマはなんでもあり。アート、音楽、個人的なエッセイ、小説、詩、イラスト、食べ物、旅行、土地など。
- 独自のデザイン:zineは作り手が手作業でレイアウトを行い、コピー機やプリンターを使って印刷されることが多い。このため、手作り感満載の独自のビジュアルスタイルや特徴的なアートワークを持っています。
- コミュニティとカルチャー:zineは、特定のサブカルチャーやコミュニティ内で情報交換や意見発信の手段として機能することが多いです。
zineの制作手順
次に「zine」の制作方法について、順を追って説明します。
- テーマ、主題を決める:何について書くのかを決める。
- コンテンツの収集と作成:テーマに関連する文章(記事やエッセイ)を作成する。イラストや写真を用意する。必要に応じて他のライターやアーティストからの寄稿を受け付ける。
- 編集、レイアウト、デザイン:編集用ソフトウェア(Microsoft Word、Canvaなど)を使うなどして、各ページのデザインや配置を決める。
- 印刷:印刷方法(自宅のプリンター、コピーショップ、オンライン印刷サービスなど)および製本方法(中綴じ、無線綴じ、糸綴じなど)を決め、面付を行った後、zineの原稿を印刷する。
- 製本:4.で決めた製本方法(中綴じ、無線綴じ、糸綴じなど)に従い、原稿を丁合した後、製本する。
またこの中で 4.印刷、5.製本 については、 請け負ってくれる業者が存在しており、そういった業者に依頼するというのも選択肢の一つです。
丁合について
5.製本の中に出てきた「丁合(ちょうあい)」とは、印刷した用紙をまとめる作業のことをそう呼び、製本前に行う作業です。なお、「ペラ丁合」、「折り丁合」などがあり、「ペラ丁合」というは折られていない1枚ペラだけで構成されているもので、「折り丁合」というのは、中綴じのように折った用紙で構成されたものを言います。
kensatoolsのzine
これまで「zine」について説明をしてきましたが、それでは「kensatools」の「zine」を作ってみよう!という「ささやかな企み」が実行中です。
さて、前回の記事「手はじめの手製本(中綴じ)」では、展示会用に左図のような製品案内を中綴じ製本して作った話をしました。自分たちでコンテンツを用意し、それを自分たちで印刷、製本するという部分は「zine」と言えなくもないですが、この冊子はあくまでも「製品案内」であって、それ以上でも以下でもないというのが本当のところです。
そこでどういうコンテンツを対象としたらいいのかを考えた所、「zine」に見合ったいいモノがあることに気が付きました。
zineと製本
zineの制作過程において、印刷と製本というのは、小冊子を作るというモノづくりそのものの工程です。前述したように、この工程については、印刷・製本を合わせて請け負ってくれる業者が多く存在しており、そういった業者に依頼するというのも選択肢の一つです。ですが、紙は扱っていませんが当社もモノづくりメーカーですので、普段からそういったモノづくりには前向きなのでDIYで製本(いわゆる手製本、自家製本)まで行いたいというのが「ささやかな企み」の方針です。
製本という視点で冒頭画像の3冊のzineを見てみると、「How to Book in Japan」(左)は左側にホッチキスが見えるので「中綴じ」、「台所珈琲の手びき」(中)、「民藝雑論」(右)は「無線綴じ」で製本されていて、「台所珈琲の手びき」(中)は、横書きのため右開き、「民藝雑論」(右)は、縦書きなので左開きです。構成する紙の枚数は、それぞれ、全24頁12枚の折り丁合(左)、20枚のペラ丁合+表紙(中)、15枚のペラ丁合+表紙(右)となっています。
「zine」を含めた小冊子を製本する場合、「中綴じ」と「無線綴じ」のどちらかで製本されることがほとんどです。
「中綴じ」については、前回の記事「手はじめの手製本(中綴じ)」を見ていただくとして、「無線綴じ」について説明すると、無線というのは糸もホッチキスも使わないという意味ですが、本文原稿の背に専用糊、接着剤やホットメルトなどを塗布した状態で表紙をくるむように貼り付ける製本方法です。
半分に折った原稿の中央をホッチキスでとめる「中綴じ」は、使う道具はホッチキスと裁断機と作業がやり易い反面、枚数や厚みに制限があります。それに対し、「無線綴じ」は枚数や厚みについてはかなりの厚さまで可能ですが、職人作業というか、慣れや技術が必要になります(ただし、どこまで手作業で行うかにもよります)。
3冊のzine
折角画像で紹介したので、3冊のzine「How to Book in Japan」(左)、「台所珈琲の手びき」(中)、「民藝雑論」(右)についても少し紹介します。
「How to Book in Japan」は、横浜市の出版社かつ印刷製本所の Neutral Colors さんが制作・発行したzineです。これはNYのSmall Editionsが製作した「How to Book」の日本版で「How to Book in Berlin」に次ぐ世界3冊目として製作されました。NY版の精神を引き継ぎ、各地で出版活動をする20のパブリッシャー、書店、作家の声で構成された、本づくりを目指す人向けの指南書になっており、リサーチ、資金調達、制作、よく使われる用語集、流通、リソースガイドで構成されています。(中綴じ、p.44、全24頁12枚の折り丁合)
*名古屋の金山にあるセレクトブックショップ TOUTEN BOOKSTORE にて購入。
「台所珈琲の手びき」は、小さな海町(神戸)の坂の上で夫婦で営んでおられるコーヒー豆屋 余白珈琲 さんが制作・発行したコーヒーにまつわるzineです。印刷製本元は記載なし。曰く、「生活のなかで愉しむコーヒーの手びきをつくりました。数学の公式のようなレシピを、ただただ載せていくだけでなく、その周辺の流れを描くことで、自分でレシピをつくることができるようなものを意識しました。」とのことで、コーヒーの味わい方とそのための豆の選び方や淹れ方について具体的なレシピをあげて説明してくれています。
豆をグラインダーでごりごりと挽き、コーノ式のドリッパーに入れ、膨らみを崩さないようにゆっくりとお湯を注ぐやり方で淹れるコーヒーラバーにとって、他の人の淹れ方を知るのはおもしろいものです。(無線綴じ、p.40、20枚のペラ丁合+表紙)
*名古屋の金山にあるセレクトブックショップ TOUTEN BOOKSTORE にて購入。
「民藝雑論」は、岐阜県高山市で民芸品店 やわい屋 の店主朝倉圭一さんが制作し、かそけ舎が発行した民藝にまつわるとりとめのない思想を綴ったzine。版元はかそけ舎とのことだが、印刷製本元は記載なし。曰く、「民藝のわからなさについて考えを深めた備忘録のようなもの」とのこと。民藝なので「柳宗悦」が出てくるのだろうと思って読み始めたが、最後のに方にサラリとでてきた。民藝「道」とは言い得て妙。(無線綴じ、p.30、15枚のペラ丁合+表紙)
*名古屋の新栄にとある海外のzine、グッズ類を扱う専門店 Manila Books & Gift にて購入。